さまざまな性 2 (3年:総合的な学習)
 性同一性障害のTさんを講師に迎え,その体験や考えを語っていただいた。
ねらい
 性のあり方は多様であり,誰にでも自分らしさを求めて普通に生きる権利があるということを理解する。
指導過程

学習活動 教師の支援
1 Tさんの話を聞いた。 ・ Tさんの気持ちを考えながら,真剣に聞くよう投げかけた。
・ 子どもの理解の助けとなるよう、大切な点は板書した。
2 話の内容を振り返り,ワークシートに感想を書いた。 ・ 板書したことを読み直し,心に大きな傷を受け,怒りや恐怖,孤独感にさいなまれながら暮らしてきたTさんの気持ちに共感できるようにした。
3 感想や疑問・質問を発表した。  ・ Tさんがどれほど傷付き苦しんできたか等,分かったこと・感じたこと等を発表し合わせた。

・誰でも他人の性を否定したり自己否定したりせず,自信を持って堂々と生きていってほしいことを伝えた。
◆Tさんの話◆
・ 小学校3年生の時、女性的な心があることに気が付いた。女の子になりたかった。
・ 周りが性を決めてしまうと、いつまでもずっと苦しい。親にも言えなかった。
・ 中学生の頃、体が変化していき、自分の体が嫌になった。
・ 性は変えられないのに、男らしさを押しつけられてきた。病気ではないと思っている。
・ 元々は男だと理解しているが、心は女だとずっと思っていた。
・ かつては誰もさまざまな性のことを知らなかった。→男の子達からは、女言葉を話したりすると、「気持ち悪い」 などといじめられてきた。
・ 心が痛んで引きこもるようになっていった。
・ 好きな先輩が、「自分の目指す道を進めばいい」と言ってくれたから、大人になるまで耐えてこれた。一人の人間として生きることができた。いじめられた時、仕返しするのではなく、それ以外のことで一番になろうと思った。
・ 認められず苦しんだ。性別にとらわれなくてもいいのではないか?
・ 自衛隊の小隊長が「ありのままの自分でいなさい。」と言ってくれたので救われた。 → 命の恩人 → それからは言いたいことが言えるようになった。
・ 心と体の食い違いはとてもつらい。認めてほしい。偏見を持たず幅広いとらえ方で。
・ 新しい発見をしたい。周りが変わると少し楽になる。
◇ 子どもの質問 ◇
Q  A 
 仕事は何をしているのか?  陸上自衛隊や船の仕事、営業の仕事などいろいろ
 女の名前はどうしてつけたのか?  お店の店長に付けてもらった。
 好きな色は?  青
 好きなスポーツは?  柔道などは男らしくてかっこいいと思う。
 結婚しているのか?  勧められて1度結婚した。
 友達はいるのか?  ずっと隠したまま友達と付き合ってきた。男としての友達はたくさんいたが、悩みを打ち明けたら半分になった。それだけ理解されていなかった。
 嬉しかったことは何?  本当の意味での親友ができたこと。心から話し合える友達ができたのは嬉しい。
<子どもの感想〜発表およびワークシートより〜>
・いっぱい話してくれたので、いっぱいメモした。四角に入らないくらい書いた。
・Tさんはとても優しかった。服装が似合っていた。白のコートがかわいかった。
・女らしかった。もうちょっと男っぽいのかと思っていた。
・いじめられてかわいそうだった。自分なら仕返ししたい。
・話す時、Tさんは震えていた。よっぽど悲しかったんだと思う。
・いじめられても暴力で返さないのがすごい。
・自分がいじめられたらすごく悲しい。
・いろいろな嫌なことを乗り越えてきて、いろいろなお話をしてもらえたので嬉しかった。
・いろんなつらい思いをしてきたのが分かった。
・最初はどんな人かと思ったけど、優しそうできれいな人だった。
・いじめられてかわいそうだった。
・いじめられて、すごーく我慢してきたからすごかった。
・いじめられてもやり返さないから、とても優しい心を持っているんだなと思った。
・友達に本当のことを言うと友達が半分になってしまったけど、本当の親友ができてよかった。性同一性障害でも人間は同じなので、仲良くしたらいいのにと思った。私はこれからも友達と仲良くしたいし、いじめたりしないようにしたい。また、Tさんと同じ性同一性障害の人を苦しませないようにしたい。
・Tさんは男性で、女性になれないんですよね。Tさんはもう女性ですよ。女性になりたかったら、もう女性になったことにすればいいと思う。男って思わない方がいい。Tさんは素敵な女性だと思う。
・すごく勉強になった。Tさんが小学校の時に苦しんだり悩んだりしていたのに、大人になるまで耐えたことがすごかった。そのことを3年生のみんなの前で言ってくれてありがとう。Tさんは勇気があるなあと思った。私もTさんみたいに勇気をつけれるように頑張る。
・つらいことも友達に話して、とても勇気があると思う。また会いたい。
・こんなに大勢の前でお話をしたので心が強いと思う。くじけないで頑張ったのもすごい。
・Tさんは女性になれてよかった。苦しいこともあったけど、もう1人ではない。3年生がTさんのお友達。これからも心が強いままでいて下さい。Tさんはとても心が強いから大丈夫。もう迷わなくていい。
・どうして嫌なことを言われても怒らないのか、私はそこが不思議に思った。
・いろいろなつらい壁を乗り越えてきてすごい。またいつかお話を聞かせてほしい。
・私もTさんのように我慢強くなってみたい。またイジメがあっても我慢していろんなことを乗り越えていってほしい。
・言ってくれたので初めて知った。
・いじめられている気持ちはすごくよく分かる。友達が減るともっとつらい。自分だったら泣いてしまいそうだ。
・いじめにあっても自殺しないでこんなに乗り越えてきたことはすごい。これからも忘れないでいたい。つらいことがあったらTさんのことを思い出して乗り越えていきたい。
・「らしさ」は自分で決めるということがとてもよく分かった。慰めてくれる友達が一番いいということも分かった。何でも相談できて何の話でも言える人が本当の友達っていうこともよく分かった。
・いじめられてもやり返さないで切り抜けたのがすごい。ぼくだったら絶対やり返していたと思う。
・Tさんを励ましてくれて、とても優しい友達だと思った。
・女の子の友達はいたのかな?
・好きな先輩もできてよかった。慰めてくれる人、救ってくれる人がいて本当によかった。
・いい仕事が見つけられるといいですね。
・いじめられても自分らしく生きているからすごい。自分が出したい「性」が出せないから、性同一性障害はつらいと思う。
・Tさんを見習いたいと思った。つらかったことをみんなの前で言ったから。私だったらそんなことはできない。いじめがどんなにつらいか、心が痛いほど思い知った。
・いじめられた時どんな気持ちだったかよく伝わってきた。
・言えないことをみんなに言って、楽になりましたか?苦しくてもつらくても頑張ったTさんを尊敬している。Tさんの先輩が言ったことも尊敬して、私はとっても嬉しくて、もし私がいじめられてもTさんのように頑張りたい。また来てほしい。
・話を聞いて泣きそうになったけど我慢した。
・私もTさんのように強い意志を持って生きたい。
・性は人が決めるんじゃなく自分が決める。勇気を持って頑張ってほしい。
◆考察◆
* 終末では、再度、相手のことを考えて生きていくことが大切であり、 自分も友達も大切に生きていってほしいということを伝え、授業を終えた。

* 子どもたちは、命がけで歩んできたTさんの生き方に、心の底から感動していた。無責任な言動の罪深さや、人権の大切さ・互いを尊重し合うことの大切さにも気付いていた。「知る」ことはパワーの源なのだと改めて思う。Tさんの言葉を一言一句聞き漏らさないように、真剣な瞳で聞き、感想を話していた。

* Tさんが心身の性の不一致に気付き、苦しみ始めたのも、子ども達と同じ小学校3年生であったという。今回お話を聞くのに、ふさわしい学年だったと思う。

* 他人の心ない言葉によって、死ぬほど悩み、苦しんできたTさんが、初めて会う子ども達の前でその苦しみを語って下さった。どれほどの勇気と決意によるものか。いくら感謝してもし足りない思いだ。
◆参観した保護者の感想◆
・ とてもきれいな女性なので驚きました。髪型・服・しゃべり方。そして足が細く長いのに、今日のお話を聞いて改めて人はそれぞれいろんな悩みを抱え、頑張ってこられているのですね。だから人も傷付けてはいけないし、人の痛みが分かる人になるように、何にも知らない大人になったらいけないのだと思います。子ども達からいろんな人の話など聞いて、もっと勉強できたらいいなぁと思います。

・ 今回の授業は始まる前からとても関心があり、参観させてもらいました。3年生の子ども達にはまだ少し理解しにくい所もあったと思うけど、人を差別的な目で見ないで、いろんな生き方・考え方があるということを学べてよかったと思いました。

・ 私自身もこういう方の話を聞くことはないのでとても勉強になりました。とてもよい経験だと思うので、またこういう授業を取り入れていってほしいと思います。素晴らしい授業でした!
◆参観した他教師の感想◆
・ 声を震わせながら、絞り出すように、言葉を選びながら話していた。分かってもらいたいという気持ちが強く伝わってきた。真実の言葉だった。子どもの胸に響いたと思う。参観日にした意味があった。時々子ども達は先生の顔を見ていたし、親の方を振り返っていた。
・ 相手の気持ちを考えるということを学んだ。
・ 何ひとつ悪いことはしていない、むしろ人の何倍も努力しているのに、ただ「普通に暮らす」ことさえ大変な彼女にお会いして、改めて「何も知らない・知ろうとしない」「人の心の痛みに鈍感」な自分を恥じる思いがした。
・ 子どもたちはまだ真っ白だからこそ「ありのまま」で受け取り、「自分ではどうしようもないこと」に対して、嫌なことを言ったり傷付けたりしてはいけないんだと心に刻んだのではないかと思う。そして「どうしようもないこと」が自分にあったら、親や先生に隠さないで、ちゃんと訴えていいのだということも理解したことと思う。

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